ワインの収量制限は、基本収量・絶対上限(rendement butoir)・それを超えると収穫全量が名称を失う線、の最大3段で書かれる。段数は産地によって違い、バンドールのように基本と上限が同じ1段の産地もあれば、タヴェル46→50→52、ヴァケラス36→40→42のように3段を持つ産地もある。シャトー・シャロンは基本30に対して上限50と、差が20いちばん開いている。
「この産地の収量上限は40hl/ha」と書かれていても、その40が何の40なのかは産地で違います。フランスのAOCはふつう基本収量と絶対上限(rendement butoir)の2段で書きますが、産地によってはそれを超えると収穫が丸ごとAOCを名乗れなくなる3段目があり、逆に基本と上限が同じ数字で、段が1つしかない産地もあります。
フランスのAOCは、ふつう2段で書く
基本収量(rendement)と絶対上限(rendement butoir)。前者はその年に申告してよい量、後者はどんな年でもここまで、という線です。マルゴーなら57と63、ソーテルヌなら25と28。ワインの本で「収量◯hl/ha」と紹介されるとき、どちらの数字かは書かれていないことがほとんどです。
3段目がある産地
いくつかの産地は、butoir のさらに上に「これを超えたら、その年の収穫は全部AOCを名乗れない」という線を持っています。butoir は「申告できる量の天井」ですが、3段目は失格のラインで、性質が違います。
| 産地 | 基本 | 絶対上限 | 名乗れなくなる線 | 規定の文言 |
|---|---|---|---|---|
| バニュルス(果汁で数える) | 30 | 40 | 40 | 40 hl/haを超えると、その収穫は全量がAOCを名乗れなくなる |
| ヴァケラス | 36 | 40 | 42 | さらに42 hl/haを超えると収穫全量がAOCを失う |
| サン・ジョセフ | 40 | 46 | 50 | 収量は赤白とも40hl/ha(上限46hl/ha、これを超えると名称を失う上限が50hl/ha) |
| タヴェル | 46 | 50 | 52 | 収量は46 hl/ha、rendement butoir は50 hl/ha、52 hl/haを超えると権利を失う |
| アルザス・グラン・クリュ(白) | 50 | 60 | 77 | rendement maximum de production は77 hl/ha |
| フロントン(赤) | 50 | 60 | 70 | 収量が70hl/haを超えると、その年の収穫は全部AOCを名乗れなくなる |
バニュルスだけは少し違って、butoir そのものが失格のラインです。40 hl/haを超えたら、超えた分だけでなくその収穫が丸ごと名乗れなくなる。アルザス・グラン・クリュの3段目は呼び方も違い、rendement maximum de production(77 hl/ha)という別の名前がついています。
逆に、段が1つしかない産地
バンドールは基本も上限も40 hl/ha。良い年に少し多く穫ることを認めていません。同じ形は、甘口や特殊な造りのところにも出てきます——ガイヤックのヴァンダンジュ・タルディヴが25、エルミタージュのヴァン・ド・パイユが15。ぶどうを乾かしたり遅摘みしたりする造りでは、「少し多く」という幅そのものを置かない、という設計に見えます。
開き方がいちばん大きいのはシャトー・シャロン
シャトー・シャロンは基本30に対して上限50。差が20で、当サイトでいちばん開いています。サヴァニャンを6年以上樽で寝かせる産地なので、どちらの数字を見るかで印象がまるで変わります。「シャトー・シャロンの収量は50hl/ha」と書くのは、間違いではないけれど実態からは遠い。
ついでに言うと、マルゴーの butoir は畑の形で63から60に下がります(畝間1.40〜1.50mで、垣根の葉の高さ÷畝間が0.6〜0.7のとき)。クローズ・エルミタージュでは、2009年7月31日時点で植わっていた畝間2.50〜2.75mの区画だけ基本も上限もともに40という例外があります。段数だけでなく、段の高さが畑ごとに動くこともある。
そもそも単位が違う
ここまで hl/ha(1ヘクタールあたり何ヘクトリットルのワイン)で並べてきましたが、規定が何を数えているかも産地で違います。
| 産地 | 何で書いているか | 規定の文言 |
|---|---|---|
| バニュルス | 果汁のhl/ha | 収量は果汁で30 hl/ha、rendement butoir は果汁で40 hl/ha |
| マデイラ | 果汁のhl/ha | 収量は「果汁(mosto)で80hl/ha」という、酒精強化の前の段階で縛る書き方 |
| セトゥーバル | base(基準)と書く | ほかの産地が「máximo(最大)」と書くところを「base」と書いている |
| ターヴォラ・ヴァローザ | 原文が hl/ha と書く | 原文が「hl/ha」という単位記号そのもので書いている当サイトで唯一の産地 |
| ダン | hl だけで書く | 収量はhl/haだけで書かれている |
| アレンテージョ | kg/ha と hl/ha を併記 | 重量と容量を併記し、しかも色で分けている |
| コンカ・デ・バルベラ | ぶどうとワインの両方 | 収量上限はぶどう12,000 kg/ha、ワイン84 hl/ha |
スペインはkg/ha(ぶどうの重さ)で書くのが基本で、hl/ha は搾汁率(ぶどう100kgあたり何リットル)を掛けた換算値です。だから搾汁率の規定が変われば、同じkg/haでもhl/haは動きます。ポルトガルは hl/ha が主ですが、セトゥーバルだけは「最大」ではなく「base(基準)」と書いていて、言葉の選び方が違う。バニュルスとマデイラは果汁(moût / mosto)のhlで数えます。あとからアルコールを足す酒なので、できあがったワインの量で縛っても意味がないからです。
この表は、当サイトが生産規定を確認できた産地のうち、段がはっきり読み取れたものだけを並べています。各行は、リンク先の産地ページから一次資料にたどれます。ドイツやポルトガルの多くの産地のように「収量上限は◯hl/ha」と1つだけ書く産地は、段の比較ができないため入れていません。
この記事で読んだ産地
- エルミタージュ一次資料1件
- カール・ド・ショーム グラン・クリュ一次資料1件
- ソーテルヌ一次資料2件
- ガイヤック一次資料3件
- ボンヌゾー一次資料2件
- モンバジヤック一次資料1件
- シャトー・シャロン一次資料3件
- バニュルス一次資料3件
- ヴァケラス一次資料3件
- バンドール一次資料2件
- サン・ジョセフ一次資料2件
- タヴェル一次資料2件
- アルザス・グラン・クリュ一次資料4件
- フロントン一次資料2件
- マルゴー一次資料2件
- マデイラ一次資料1件
- セトゥーバル(モスカテル)一次資料1件
- ターヴォラ・ヴァローザ一次資料1件
- ダン一次資料1件
- アレンテージョ一次資料1件
- コンカ・デ・バルベラ一次資料1件
出典
生産規定エルミタージュ
https://winovibe.com/regions/hermitage/この産地の一次資料(1件)はリンク先に載せています
生産規定カール・ド・ショーム グラン・クリュ
https://winovibe.com/regions/quarts-de-chaume/この産地の一次資料(1件)はリンク先に載せています
生産規定ソーテルヌ
https://winovibe.com/regions/sauternes/この産地の一次資料(2件)はリンク先に載せています
生産規定ガイヤック
https://winovibe.com/regions/gaillac/この産地の一次資料(3件)はリンク先に載せています
生産規定ボンヌゾー
https://winovibe.com/regions/bonnezeaux/この産地の一次資料(2件)はリンク先に載せています
生産規定モンバジヤック
https://winovibe.com/regions/monbazillac/この産地の一次資料(1件)はリンク先に載せています
生産規定シャトー・シャロン
https://winovibe.com/regions/chateau-chalon/この産地の一次資料(3件)はリンク先に載せています
生産規定バニュルス
https://winovibe.com/regions/banyuls/この産地の一次資料(3件)はリンク先に載せています
生産規定ヴァケラス
https://winovibe.com/regions/vacqueyras/この産地の一次資料(3件)はリンク先に載せています
生産規定バンドール
https://winovibe.com/regions/bandol/この産地の一次資料(2件)はリンク先に載せています
生産規定サン・ジョセフ
https://winovibe.com/regions/saint-joseph/この産地の一次資料(2件)はリンク先に載せています
生産規定タヴェル
https://winovibe.com/regions/tavel/この産地の一次資料(2件)はリンク先に載せています
生産規定アルザス・グラン・クリュ
https://winovibe.com/regions/alsace-grand-cru/この産地の一次資料(4件)はリンク先に載せています
生産規定フロントン
https://winovibe.com/regions/fronton/この産地の一次資料(2件)はリンク先に載せています
生産規定マルゴー
https://winovibe.com/regions/margaux/この産地の一次資料(2件)はリンク先に載せています
生産規定マデイラ
https://winovibe.com/regions/madeira/この産地の一次資料(1件)はリンク先に載せています
生産規定セトゥーバル(モスカテル)
https://winovibe.com/regions/setubal/この産地の一次資料(1件)はリンク先に載せています
生産規定ターヴォラ・ヴァローザ
https://winovibe.com/regions/tavora-varosa/この産地の一次資料(1件)はリンク先に載せています
生産規定ダン
https://winovibe.com/regions/dao/この産地の一次資料(1件)はリンク先に載せています
生産規定アレンテージョ
https://winovibe.com/regions/alentejo/この産地の一次資料(1件)はリンク先に載せています
生産規定コンカ・デ・バルベラ
https://winovibe.com/regions/conca-de-barbera/この産地の一次資料(1件)はリンク先に載せています
規定は改正されます。掲載しているのは各出典を確認した時点の内容です。実際の商品がその規定に沿っているかは、生産者の表示をご確認ください。フランスのAOCについては、INAOが公開する生産規定に改正案(PNO版)と官報で確定した版があります。PNO版は旧い数値に取り消し線を引いて新しい数値を併記する形式のため、当サイトは新しい数値を採用し、確定版で突き合わせられなかったものはその旨を書いています。イタリアは農業・食料主権・森林省(Masaf)が公開する統合版の生産規定、スペインは農業・漁業・食料省(MAPA)または州の所管機関・統制委員会が公開する生産規定、ポルトガルはブドウ・ワイン研究所(IVV)とドウロ・ポルトワイン協会(IVDP)が公開する生産規定・技術仕様書、オーストリアは連邦法令情報システム(RIS)のDAC法令と連邦農林・地域・水資源省(BMLUK)が公開する製品仕様書を使っています。ドイツは欧州委員会のeAmbrosiaに登録された製品仕様書(Technische Unterlage)を使っています。フランスの一部の産地も、eAmbrosiaに登録されたEU登録版の技術仕様書を使っています。これは改正案(PNO版)が混ざらない代わりに要約文書なので、最低糖度や品種の比率が記載されていないことがあり、その場合はその旨を書いています。アメリカのAVAは電子連邦規則集(eCFR)の27 CFR Part 9 が条文で、承認の根拠は制定時に連邦官報(Federal Register)に載った最終規則の前文にあります。1994年より前の最終規則は連邦官報のサイトに収録がないため、アルコール・タバコ税貿易局(TTB)が自ら公開しているPDFを使っています。